1.2. 鉄則2「行ごとに直接、書式を指定してしまわないこと」
「ぶらさげインデント」や「タブ」を使うだけで、ずいぶん「再利用」の際の手間が減らせるが、本当は、それだけではまだ足りない。
たとえば、double space での提出を求められているものでも、自分で仮に印刷する場合には、紙を節約して single space にして見直したいなあと思うことがあるかもしれない。しかし、すべての行に対して指定をし直さなければならず、さらに後でまた指定を戻さなければならないということを考えると、とてもではないが、そんなことは割りに合わず、あきらめざるを得ない。
また、例文のインデントを一体何ミリに設定していたのか、ということをいちいち見直さないと、結果的に不揃いのレイアウトになってしまいやすい。
1.2.1. スタイルとテンプレート
実は、Word では、書式を直接、行ごとに指定するかわりに、行には「スタイル名」だけを与えておいて、別のところで、それぞれの「スタイル名」に対して、実際の書式を指定するという方法がある。
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(9) | a. | ×××××××× ←スタイル名「X」
×××××××× ←スタイル名「Y」
×××××××× ←スタイル名「Z」
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| b. | {<スタイル名「X」, 書式3>,
<スタイル名「Y」, 書式5>,
<スタイル名「Z」, 書式1> }
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「スタイル名」と「書式」の対応(つまり、(9b))を指定するファイルは「テンプレート」と呼ばれている。実は、Word の文書は、常に何らかのテンプレートがくっついている。何も指定していなければ Normal.dot という名前のテンプレートがついているのだが、それを、たとえば、single space 用の書式指定をしたテンプレートに付け替えることで、全体のレイアウトを変えることができる。したがって、別に、double space 用の書式指定をしたテンプレートを用意して、それに付け替えれば、それだけで single space から double space に変えることができる。
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(10) | a. | ×××××××× ←スタイル名「X」
×××××××× ←スタイル名「Y」
×××××××× ←スタイル名「Z」
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| b. | {<スタイル名「X」, 書式2>,
<スタイル名「Y」, 書式6>,
<スタイル名「Z」, 書式8> }
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このようにテンプレートを活用して、たとえば「例文」のスタイルを指定しておけば、「例文」というスタイル名を持っている行はすべて同じようにレイアウトされ、数値がそろっているかどうかなどを気にする必要もなくなるのである。
1.2.2. スタイル名の指定の仕方について
「スタイル名」はその行の「機能」を表す名前、つまり全体の中でどういう役割を果たすための行かということがわかる名前がふさわしい。「スタイル名」を指定する場合、ついつい「40mmぶらさげインデント」など、「書式」の中身の説明をしてしまう人がいるが、それでは意味がない。わざわざ「スタイル名」を指定するのは、全体のレイアウトを変換したいときのためだからである。
ワンタッチの変換がスムーズにいくためには、何かレイアウトを工夫したい行それぞれにすべて初めから「スタイル名」が与えられている必要がある。ところどころ、直接書式を指定してしまった行がまじっていると、全体を変換しようとした時に、その行だけが変な形で残ってしまう。また、「スタイル名」をその場限りで適当につけていると、全体を変換しようと思ったときに面倒になったり、もとのレイアウトでは同じように見えていた行が、別々の形で変換されてしまったりする。つまり、「スタイル名」は初めによく計画して用意しておき、常に一定の方法で用いるようにしなければ意味がない。
論文の中で用いる「スタイル名」はそんなに多くの種類が必要なわけではない。よく使うものは 10個以下に押さえられるし、最大でも 20個以下にできるだろう。常にその限られた「スタイル名」しか使わないようにしておけば、どういう大きさの紙にどのぐらいの字で印刷しなければならなくなっても、ちっとも困らない。共同作業を分担してする場合でも、用いる「スタイル名」さえ決めておけば、テンプレートを操作することによって、簡単に自分好みのレイアウトと共通のレイアウトを変換したりもできる。ちなみに、私が使っているスタイル名は以下の通りである。
- 標準(スタイル名そのものは、もともと登録されている)... 段落初めのインデントを指定している人もいるらしいが、私はしていない。段落初めのインデントはタブを入力するようにしている。そうでないと、テキストファイルに変換した場合、インデントがなくなってしまい、段落の切れ目が見えにくくなってしまうからである。
- 表題(スタイル名そのものは、もともと登録されている)... 大きめのフォントサイズ・太字・センタリングを指定している場合が多い。
- 見出し1(スタイル名そのものは、もともと登録されている)
- 見出し2(スタイル名そのものは、もともと登録されている)
- 見出し3(スタイル名そのものは、もともと登録されている)
- ex ... 番号つきの例文。タブ値にそろえて、ぶらさげインデントが指定されている。
- gloss ... 例文に添える逐語訳。ex との見分けがつきやすいように、そして、なるべく1行にたくさんの文字が入るように、横幅の小さいフォントが指定されている。
- tree ... 基本的に ex と同じであるが、図を描くときのために「次の段落と分割しない」という指定が加えられている。
- before-ex ... 例文の上の空行。
- after-ex ... 例文の下の空行。おおむね、before-ex と同じ指定でかまわないが、ex の行間の指定の仕方によっては before-ex と区別する必要がある場合があるので、念のために区別している。
- ref ... 参考文献。ぶらさげインデントが指定されている。
- 脚注(スタイル名そのものは、もともと登録されている)... 脚注と脚注の間に少し行間があくように、段落前に少し間隔がおかれている場合がある。
- note-ex ... 脚注の中の例文。タブ値にそろえて、ぶらさげインデントが指定されている。
- more-note ...基本的に「脚注」と同じであるが、段落前に間隔がおかれていないもの。 「脚注」の段落前に少し間隔がおかれている場合、2段落以上に渡る脚注ではすべての段落間に間隔があいてしまうので、初めの段落以外は、このスタイルを用いる。
もともと登録されていたスタイル名は日本語で指定されているが、自分で定めたスタイル名はすべて半角アルファベットを用いることにしている。英語版の Word で読み込んだ場合、日本語名のスタイル名が含まれていると、うまく読み込めない事例があったためである。
1.3. 鉄則3「オートフォーマットは使わないこと」
Microsoft Word では、初期状態では「オートフォーマット」が有効になっており、見出しや例文などに勝手に番号がついたり、インデントされたりする。一見、便利な機能であるが、私は、オートフォーマットの機能は、一切、無効にしている。いったんオートフォーマットを使って書いた原稿を推敲して大幅に内容を入れ替えたりする場合、意図していないところにインデントがされたり、番号がついてほしいところにつかなかったり、なかなか思ったようにいかなくてイライラさせられるからである。自分がちゃんとコントロールできない機能は、使わない方が結果的に効率的になるという例だと考えている。
なお、「オートフォーマット」を無効にするには、「オートコレクト」のオプション(バージョンによっては「補助オプション」と呼ばれている場合もある)を開いて、「入力オートフォーマット」と「一括オートフォーマット」のタブにおいてチェックされている項目をすべてはずす。
1.4. 鉄則4「すべての編集記号を表示させること」
改行記号や空白記号、タブ記号などもふくめて、すべての編集記号は画面に表示させるようにした方がいいと思う。初めは少しうっとうしく感じるかもしれないが、自分が思う通りのレイアウト表示をスムーズにえられるためには、自分がどういう記号を入力したのか把握していることが一番である。「オプション」の「表示」タブで「すべての編集記号を表示」というところにチェックをいれておけばよい。
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