連載第1回
 この「generalization を目指して」について
 0.きっかけに出会う
 1.目標
連載第2回
 2.思いつきを形にする
 3.反例を見つける
連載第3回
 4.generalization の言い方を吟味する
  4.1. 真偽疑問文/疑問語疑問文
連載第4回
  4.2. 「か」のある疑問文
連載第5回
  4.3. 間接疑問文
 5.まとめ
 6.generalizationの先にあるもの

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「generalization を目指して」
第2回
2.思いつきを形にする
 たとえば、(2)を見ていて次のようなことを思いついたとする。

(7) 思いつき:
  (2)のような疑問文の容認可能性は、文末に何がくるかで決まるのかもしれない。

つまり、この思いつきは次のような generalization を目指すものである。

(8) Generalization 0:
  (2)のような疑問文の場合、文末が〜なら容認不可能となり、そうでなければ容認可能となる。

(7)が正しいというためには、少なくとも次のことが示されなければならない。

(9) (7)の必要条件:
  (2)のような疑問文の場合、文末にくるものによって容認可能性が分かれる。

思いつきを検証する場合にはできるだけ多くの例文にあたってみることが必要である。しかし、「文末にくるもの」すべてを試すことは不可能なので、何らかのタイプ別に調べてみるしかない。品詞なら、ある程度基準がはっきりしているので、文末にくるものの品詞をかえながら(7)の思いつきを検証してみよう。
 次がその結果である。

(10) 文末にくるもののテスト:
 a. 明日、来る? [動詞・基本形]
 b. 昨日、来た? [動詞・ タ形]
 c. 明日、来ます? [動詞接辞・基本形・ ます]
 d. 昨日、来ました? [動詞接辞・ タ形・ ます]
 e. この本、高い? [イ形容詞・基本形]
 f. この本、高かった? [イ形容詞・ タ形]
 g. *この部屋、静かだ? [ナ形容詞・基本形・  だ]
 h. この部屋、静かだった? [ナ形容詞・ タ形・  だ]
 i. *この部屋、静かである? [ナ形容詞・基本形・である]
 j. *この部屋、静かであった? [ナ形容詞・ タ形・である]
 k. ??この部屋、静かです? [ナ形容詞・基本形・ です]
 l. この部屋、静かでした? [ナ形容詞・ タ形・ です]
 m. この部屋、静か? [ナ形容詞・語幹形]
 n. *あの人、フランス人だ? [判定詞・基本形・  だ]
 o. あの人、フランス人だった? [判定詞・ タ形・  だ]
 p. *あの人、フランス人である? [判定詞・基本形・である]
 q. *あの人、フランス人であった? [判定詞・ タ形・である]
 r. ??あの人、フランス人です? [判定詞・基本形・ です]
 s. あの人、フランス人でした? [判定詞・ タ形・ です]
 t. あの人、フランス人? [名詞]
 u. *今日、休講なんだ? [助動詞・基本形・  だ]
 v. 今日、休講なんだった? [助動詞・ タ形・  だ]

結果的に容認可能性がそろったのは、次のようなグル−プである。

(11) 容認可能性によるタイプ分け:
 a. (2)のような疑問文が * になるもの ... だ/である/であった
 b. (2)のような疑問文が ?? になるもの ... です
 c. (2)のような疑問文ができるもの ... 上記以外

そこで、次のような generalization ができる。

(12) Generalization 1:
  (2)のような疑問文の場合、文末が「だ/である/であった/です」なら容認不可能となり、そうでなければ容認可能となる。(ただし、文末が「です」の場合は語彙差・個人差が大きい。)

 実際には、(12)にたどりつくまでにも試行錯誤がいろいろあり、例文として調べたものは(10)だけでなく、かなりたくさんの例文を観察したはずである。そういう場合にも、(10)のように、何を調べた例文なのか見出しをつけておくと、(12)のようにまとめる時にも見出しだけを見て整理していくことができ、見通しがつきやすくなる。

3.「反例」を見つける
 (12)は1つの思いつきを形にしただけであるから、それがそのまま「正解」である可能性はあまりない。そこで、(12)の反例がないか考えてみる。たとえば、次の例文は(12)の反例となる。

(13) Generalization 1 の反例:
 a. 何だ?
 b. 誰だ?
 c. どの問題が一番簡単なんだ?

いくつか試してみるとわかるように、疑問語がふくまれていると、「だ」で終わる疑問文も容認可能になる。その目で見直してみると、(10)の例文には、どれも疑問語がふくまれていない。すべての例文を網羅的に調べていたつもりで盲点があったことがわかる。つまり、(12)は次のようにいうべきだったのである。

(14) Generalization 2-1:
  (2)のような疑問文で疑問語をふくんでいない場合、文末が「だ/である/であった/です」なら容認不可能となり、そうでなければ容認可能となる。(ただし、文末が「です」の場合は語彙差・個人差が大きい。)

 (10)は疑問語をふくまない文だけだったので、疑問語をふくんだ文でもう一度調べなければならない。

(15) 文末にくるものによる違い(疑問語をふくんでいる場合):
 a. いつ来る? [動詞・基本形]
 b. いつ来た? [動詞・ タ形]
 c. いつ来ます?   [動詞接辞・基本形・ ます]
 d. いつ来ました? [動詞接辞・ タ形・ ます]
 e. どの本が一番高い? [イ形容詞・基本形]
 f. どの本が一番高かった? [イ形容詞・ タ形]
 g. どこの部屋が静かだ? [ナ形容詞・基本形・  だ]
 h. どこの部屋が静かだった? [ナ形容詞・ タ形・  だ]
 i. *どこの部屋が静かである? [ナ形容詞・基本形・である]
 j. *どこの部屋が静かであった? [ナ形容詞・ タ形・である]
 k. どこの部屋が静かです? [ナ形容詞・基本形・ です]
 l. どこの部屋が静かでした? [ナ形容詞・ タ形・ です]
 m. どこの部屋が静か? [ナ形容詞・語幹形]
 n. どの人がフランス人だ? [判定詞・基本形・  だ]
 o. どの人がフランス人だった? [判定詞・ タ形・  だ]
 p. *どの人がフランス人である? [判定詞・基本形・である]
 q. *どの人がフランス人であった? [判定詞・ タ形・である]
 r. どの人がフランス人です? [判定詞・基本形・ です]
 s. どの人がフランス人でした? [判定詞・ タ形・ です]
 t. どの人がフランス人? [名詞]
 u. 何時間目が休講なんだ? [助動詞・基本形・  だ]
 v. 何時間目が休講なんだった? [助動詞・ タ形・  だ]

この結果をまとめると、次のようになる。

(16) Generalization 2-2:
  (2)のような疑問文で疑問語をふくんでいる場合、文末が「である/であった」なら容認不可能となり、そうでなければ容認可能となる。

 疑問文には疑問語をふくんだものとふくまないものとがあるので、(3)に答えるためには、(14)と(16)の両方が必要である。見やすいように、その2つをまとめて書いておこう。

(17) Generalization 2:
 (i) (2)のような疑問文で疑問語をふくんでいない場合、文末が「だ/である/であった/です」なら容認不可能となり、そうでなければ容認可能となる。(ただし、文末が「です」の場合は語彙差・個人差が大きい。)
 (ii) (2)のような疑問文で疑問語をふくんでいる場合、文末が「である/であった」なら容認不可能となり、そうでなければ容認可能となる。

(10)の例文は疑問語をふくんでいないものばかりだったので、(12)のGeneralization 1は不適切だったことがわかった。このように、自分がえたgeneralizationに対する反例を見つけることによって、少しずつ言語の真の姿に近づいていくことができるのである。