論文の書き方に関する参考文献

 以前は、文章の書き方というと、評論やエッセイを念頭に置いたものがほとんどで、論文を書く場合には参考にならないことが多かったのですが、最近では、「自分の考えを論理的にまとめるには」「自分の考えを明確に伝えるには」という目的を掲げた参考書がずいぶん増えてきました。

 数から言うと、最も多いのはビジネス関係書です。ビジネスの場で求められることと論文で求められることは、もちろん違う部分も多いのですが、「自分の言いたいことを、なるべくわかりやすく構成し、読み手に対する配慮をする」という点では基本的な考え方は同じです。本屋さんで何冊か見てみて、相性の良さそうなものを見てみるのもよいでしょう。

 以下では、インターネット上にかなりのコンテンツが置いてあるサイト、そして、ビジネス関係以外の本のいくつかを紹介してみます。

このサイト内では

 とりあえず、このサイト内で関連があるのは、次の3つでしょう。

「generalization を目指して」
これは、「書き方」というよりは「研究の進め方」という方が近いかもしれません。初めは単なる思いつきであっても、突っ込んで調べていくことによって、論文で書くべき内容に育つことがよくあります。その1つのパターンを例示したものです。

「論理的な議論の構築方法について」
これは、ある程度、内容ができてきた段階で、全体をどのように構成するべきか、ということがテーマになっています。

「研究者のための Word 利用法」
これは、論文の内容とはまったく関係なく、どのように Word という道具を使うかということがテーマです。内容とは関係ないと言っても、読み手の印象というものには「見た目」も含まれます。道具をどれだけ使いこなせているかということも「見た目」には大きく影響しますので、ないがしろにできることではありません。

勉強になりそうな website

論理的思考法の世界
ライティング・インストラクターの倉島保美さんのサイトです。どのページにリンクしようか迷ったのですが、上の「論理的思考法の世界」のほかにも、日本語ライティングの世界, Technical Writing World(英語ライティング), プレゼンテーションの世界等があります。まだ工事中のページもありますが、現段階でも、内容はかなり豊富です。私もまだすべてのページを読んだわけではありませんが、いろいろ勉強になりそうだなあと感じています。推奨図書の紹介もあり、また、「プレゼンテーションの世界」では、PowerPoint の上手な使い方についての説明もあります。

川村渇真の「知性の泉」
システム設計が専門の方らしいですが、考えの整理の仕方やテクニカル・ライティングについてずいぶんたくさん書かれているサイトです。実は、私もまだ巡り会ったばかりで、読んでいないページがほとんどなのですが、ところどころのぞいてみるに、整理の仕方の志向性が自分と似ているので、おそらく書いてある内容も好みではないかなあと思って載せてみました。関係があるのは、「頭の使い方を良くする思考のヒント(考ヒント)」「建設的な結論を得るための議論手法(議論手法)」「情報化社会で必須となる上手な説明技術(説明技術)」のあたりが中心だと思いますが、他のページにも関連することが書かれているかもしれません。

若手研究者のお経 -- これから論文を書く若者のために --
東北大学の植物の進化生態学の先生が書かれているサイトです。理系と文系で多少、状況は違いますが、論文審査についてのことが書かれているのはめったに見ないので、紹介してみました。その意味では、院生にとって、より価値が大きいサイトかもしれませんね。でも、卒論を書く皆さんにとっても、イントロダクションの書き方など、参考になる点もあるでしょう。特に院生の人には、この著者の『これから論文を書く若者のために』共立出版 \2500 がおすすめです。雑誌に論文を投稿する場合のさまざまな事情がよくわかると思います。

東大で学んだ卒業論文の書き方
「工学部の標準的な卒論の書き方について説明」されているサイトです。工学部の論文と言語学の論文とでは、少し習慣や状況が違う場合もありますが、多くの部分が共通しているので、あげてみました。読みやすく、ポイントが印象的な格言で表現されているところが多いので、記憶に残りやすいと思います。

図書

 いろいろなタイプの本がありますが、自分が出会った順で紹介することにします。他にも忘れているものがありそうなので、思い出したら、また追加します。

本多 勝一 (1982) 『日本語の作文技術』朝日文庫、朝日新聞社。¥540
非常に具体的に、どういう文がわかりにくく、どうすればわかりやすい文になるかということが書かれています。文章全体の構築方法についてはあまり具体的に述べられていませんが、1つ1つの文の推敲の仕方が様々な実例を使って説明されているので、大変印象的でした。

木下 是雄 (1981) 『理科系の作文技術』中公新書、中央公論新社。¥700
誰もが薦める本だと言われています。熟読はできていないのですが、作業の全体像がバランスよく説明されていると思います。

本多 勝一 (1994) 『実戦・日本語の作文技術』朝日文庫、朝日新聞社。¥560
上の『日本語の作文技術』と特に異なるポイントはありませんが、さらにいろいろな実例を見せてくれています。

野矢 茂樹 (1997) 『論理トレーニング』産業図書。¥2,400
論文を書く直前に読んでも間に合わない、内容の濃いテキストです。私たちは、日本語の接続詞の使い方や結論の導き方などについて、普段いかに留意していないかということを痛感させられます。短い文章での例題が豊富で、このすべてにじっくりと取り組めば、必ずや、自分の中の論理の力が芽吹いて花開くだろうという期待を持たせてくれます。(例題の中には、解答がつけられているものもあります。)

野矢 茂樹 (2001) 『論理トレーニング101題』産業図書。¥2,000
上記の本の第2弾。こちらの例題には、すべて解答がつけられているので、独習しやすくなっています。

野田尚史・森田稔 (2003) 『日本語を書くトレーニング』ひつじ書房。¥1000
これは、上の他のものとはまた趣を異にしたものです。例題となっているのは、メール・イベントのチラシ・アンケート・喫茶店のメニュー・報告書・レポート等、きわめて日常的な文書ばかりで、ちょっと油断をすると自分も書いてしまいそうな、(わざとらしくない)例がたくさん紹介されています。考えるための方向やヒントだけで、解答はついていませんが、いわば、これは自分の行動を鏡に映して見せてくれているようなものであり、いかに書き手が自己中心的になってしまいやすいかということを実感させてくれます。

山田ズーニー (2001) 『伝わる・揺さぶる!文章を書く』PHP新書。¥660
直接の題材になっているのは、入試の小論文や手紙などですが、あらゆる種類の「作文」に際して留意しなければならないこと、そして、それを達成するための考え方が大変わかりやすく書かれており、論文にも十分役に立つと思います。院生の人など、少し論文を書き慣れた人でも、一読すると勉強になることがいろいろ見つかり、文を書く場合のよりどころとして、自分の頭の整理になると思います。どういうタイプのことが書かれている本か知りたい人は、ほぼ日刊イトイ新聞のおとなの小論文教室。をのぞいてみてもいいと思いますが、本のほうは、この連載で書いた内容を再構成し凝縮したもののようなので、その分、よりわかりやすくなっていると感じました。