授業内容に関する FAQ

(まだまだ項目数が少ないですが、これから少しずつ書きためていく予定です。)
授業では、θ-criterion の訳語として「θ準」というのが使われていますが、参考書を調べたら「θ準」と書いてありました。どちらが正しいのでしょうか。(↑FAQ 目次へ)
 本来、
「規準」とは
〔哲〕(criterion) 信仰・思惟・評価・行為などの則るべき範例・規則。規範。[広辞苑第五版]
「基準」とは
ものごとの基礎となる標準。比較して考えるためのよりどころ。[広辞苑第五版]、
ということであり、私としては、θ-criterion という原理の名前としては「規準」という漢字を用いるのが正しいと考えています。私が習った頃は、「θ-criterion とは、何かの標準を示すものではなく、必ず従うべき原理の名前なのであるから、あくまでも<規準>と書くべきである。standard という意味の<基準>とは間違わないように」と言われたものでした。
 しかし、現実的には、「規準」の意味の場合でも「基準」という漢字が用いられることが多くなってきているようですね。『チョムスキー理論辞典』でも『学術用語集』でも、「θ基準」という字が用いられているということを知り驚きました。国語辞典では、たいてい「規準」と「基準」の区別がされていますが、英和辞典では、criterion の訳語として「基準」と書かれていることも多いようです。
 ことばの使い方は世の中の変化にともなって変わっていくものであるという考え方に従うならば、いまや「θ基準」という書き方も容認されていると考えざるをえないようです。でも、私自身は今後も「θ規準」という書き方で通していきたいと考えています。
θ役割の区別の基準がよくわかりません。「ジョンはメアリのことが好きだ」の「メアリのことが」はどうして proposition と考えてはいけないのでしょうか。(↑FAQ 目次へ)
 θ役割には名称(ラベル)がつけられていますが、もともとすべての意味役割を厳密に分類するための用語ではありません。θ規準を守るためには、動詞が与えるθ役割の数がわかれば十分であって、それぞれのθ役割の中身に言及した文法原理はないと考えられているからです。ただ、1つの動詞が複数の項をとる場合、名称があった方がどちらの項のことを言っているのかわかりやすいので使われているだけです。
 授業では、次の4つの名称を紹介しました。
AGENT(行為者)
何らかの行為を意志を持って行う人・生き物
EXPERIENCER(経験者)
何らかの状況を体験する人・生き物
THEME(対象物)
行為、感情などの対象となるもの、状況の変化をこうむるもの
PROPOSITION(命題)
「〜が〜する・したこと/〜が〜である・あったこと」のような、意味として主部と述部があるような内容
 この中で、AGENT と EXPERIENCER の違いは「その行為を意志を持って行っているかどうか」という点ですが、この違いは微妙な場合も多いため、必ずしも、すべての場合について衆目が一致するわけでもなく、その意味では、多数派と異なる名称を使ったからと言って、特に大きな誤解を生んだりはしないでしょう。
 これに対して、THEME であっても PROPOSITION とは呼びがたい項というものは存在しそうですね。たとえば、「"好きだ" という述語の PROPOSITION の項が...」というような言い方をすると、うまく通じない可能性が高いように思います。「ジョンはメアリのことが好きだ」と言った場合の"好きだ"という気持ちの対象は、メアリというであって、「〜が〜である」というコトではないからです。意味として具体的な人やモノを指す項の場合には、PROPOSITION という名称は使われないと思います。
 同じ「メアリのこと」という表現でも、「ねえ、ねえ、メアリのこと、聞いた?」という場合ならば、これは、「メアリというを聞いた」かどうかではなく、「メアリにこんな出来事があったということを聞いた」かどうかを尋ねているのですから、PROPOSITION と言ってもかまわないでしょう。
本や論文から引用する場合、出典はどのように書くのが正しいのでしょうか。(↑FAQ 目次へ)
 出典を書く場合、最低、守るべきことは、 誰でも、そこに書いてある情報をもとにして、original の該当箇所を探すことができる ということです。つまり、一般的には、著者・書名・出版社・該当ページ番号等が必要でしょう。上の条件が満たされていなければ、出典が書いてあるとは言えません。授業の中での提出物では、上の条件が満たされていれば、どういう書き方でもかまいません。
 これに対して、たとえば卒論では、出典の書き方の細かい書式が決まっていますし、本を出版したり、雑誌に論文を投稿したりする場合にも、それぞれ書式が定められているのが普通です。出典の書き方としては、絶対的に正しい書式があるというわけではないので、場合に応じてチェックすることが必要です。
 一応の目安として、よく使われている書き方を紹介しておきましょう。本文中で何かの本/論文に言及する場合には、
   Chomsky 1981:91 では、...
   Chomsky (1981:91) が主張しているように、...
というように、文中では著者名と出版年+該当ページ番号だけを記しておき、その文書の最後に参照文献の一覧をつけるのが普通です。(上の場合、年号にカッコをつけるかどうかは、書式としてどちらかが指定されている場合もありますし、両方を認めた上で、「その著作そのもの」を指すときにはカッコなし、「その著作を書いた研究者」を指すときにはカッコつき、という区別がされている場合もあります。)
 参照文献の一覧では、
単行本の場合
著者名・出版年・本のタイトル・出版社・出版地
雑誌論文の場合
著者名・出版年・論文のタイトル・雑誌名・巻号数・ページ
雑誌以外の本の中に含まれている論文の場合
著者名・出版年・論文のタイトル・本の編者名・本のタイトル・出版社・出版地・雑誌名・ページ
のような情報が記載されていることが必要です。その書式が見本を掲げることによって示されている場合、見本のどこに注目するかということも知っておかなければなりません。思いつく点をざっとあげてみただけで次のようになり、非常に細かく注意しなければならないことがわかります。
  • 各項目の順番はどのようになっているか。
  • 著者の first name はイニシャルだけにするのか、略さずに書くのか。
  • 共著者の名前は、「first name last name」の順番になるのか、「last name, first name」の順番になるのか。
  • 共著者と共著者の間は、「and」か「&」か「,」か。
  • 著者名のあとにピリオドをうつのか、うたないのか。
  • 出版年は、カッコでくくるのか、ピリオドをうつのか、コンマをうつのか。
  • タイトルを引用符でくくるのか、イタリックにするのか、何もしないのか、その基準はどうなっているのか。
  • 編者の書き方はどのようにするのか。
  • 巻号数・ページの書き方は、たとえば「vol.5, no.2, pp.24-43」のようにするのか「5-2, 24-43」とするのか。
  • 出版社名と出版地は、たとえば「The MIT Press, Cambridge」とするのか「Cambridge: The MIT Press」とするのか。
参照文献の書き方が特に指定されていない場合でも、これらの点について一貫した書き方になっていることが求められます。
 EndNote というソフトウェアは、いったん文献の情報をデータベースに登録しておき、Word で文書作成する際にそのデータベースとのリンクを指定しておくだけで、すべての参照文献の書式を希望通りに整えて出力してくれるものです。大変使いやすくできているそうですが、私自身、まだちゃんと使いこなせていないので、詳しいことはわかりません。特に理系の分野では、すでに主要文献が登録されたデータベースがインターネット上にあるそうですが、言語学でも、そういうデータベースがいったん作られれば、非常に使いやすいでしょうね。ただし、Word も EndNote も年々バージョンアップしており、Windows 版の EndNote は基本的に日本語版の Word での動作環境を保証してくれていないので、その点が不安なところかもしれません。
引用してはいけないものはありますか。(↑FAQ 目次へ)
 出典の書き方の項目で述べたように、引用する場合の留意点は、「誰でも、そこに書いてある情報をもとにして、original の該当箇所を探すことができる」ようにするということです。別の観点から考えると、誰でも見ることのできる文献と、そうでない文献があった場合、内容に差がないのならば、なるべく、誰でも original にあたれるような文献から引用した方が望ましいということになります。たとえば、どこかの講演で話された内容が後に本として出版されたならば、原則的には、講演の資料を引用するよりも、本から引用した方が良いということです。
 しかし、一般には公開されていない文書にだけ書かれている内容を引用したい場合もあるでしょう。無断引用はもちろん論外ですから、出典は必ず書かなければなりません。ただ、公開されていない文書の内容に言及する場合には、作者に理由があって公開していない場合もありますので、エチケットとして、言及してもいいかどうかの作者の許可をとった方が望ましいと考えています。
 たとえば、私の場合を例にとると、授業のシラバス等は公開していますが、ハンドアウトは公開しているわけではなく、授業に出席している人にのみ渡している文書です。ですから、仮に、卒論で私のハンドアウトから何かを引用したいと思った場合には、ご一報ください、ということです。おそらく、よりふさわしい引用文献があると思いますから、そちらを紹介します。
著者が複数の場合には、略してもいいのでしょうか。(↑FAQ 目次へ)
 これも、指定されている場合とされていない場合とがあると思いますが、著者が2人の場合は略さない方が普通だと思います。また、どちらの著者が最初に来ているかということが意味を持っている場合がほとんどなので、順番にも注意しましょう。
 著者が3人以上の場合には、2人目以降を省略する場合も多くなってきます。特に、本文中で言及する場合には次のような書き方をよく見かけます。
英語の場合
Aoun et al. (2001)
日本語の場合
中村 他 (2001)
「et al.」の最後のピリオドは文中であっても必ず要ります。日本語の場合は名前の部分と見分けがつきにくいのですが、「他」が最も普通に用いられていると思います。少なくとも、「中村ら」や「中村等」というのが用いられているのを見た記憶はありません。
「pp.」とは何のことでしょうか。(↑FAQ 目次へ)
 「pp.」というのは、音読するとしたら「pages」です。つまり、複数のページにまたがる場合の書き方で、
   pp.12-25
   pp.7,12,315
のような場合に用いられます。逆に、ある特定の1ページを指す場合には、
   p.56
と書くべきであり、「pp.56」というのは不適切です。
 このように、記号を2つ重ねて複数を表す書き方には、他にも
   l.5 (line 5) vs. ll.5-7 (lines 5 to 7)
   §3 (section 3) vs. §§2-5 (sections 2 to 5)
などがあります。