「この本を教科書として使ってくださる先生方へ」
 この本は、言語学に一度もふれたことのない人を対象にして書かれたものです。一般には、言語学というと抽象的な概念がたくさんでてくる現実的でない学問というイメージがあるようですが、この本では私たちの頭の中にある日本語の知識だけでも言語学を始めることができるのだということを強調したいと思っています。無意識のうちに自分の頭の中にたくわえられた言語の知識という存在に気づいてもらうことが第一の目標です。
 この本は言語学の概説書を目指したものではないので、説明されている専門用語もごく少数で、紹介されている外国語の面でも言語学の研究分野という面でもかなりかたよってしまっています。そのぶん、読みやすくすることに留意しました。そのため、本文中では注や参考文献を明記しませんでしたが、ここにまとめて書いておきます。

1.文字と音 [音韻論]

<注1>
この本では「アルファベット」という用語によって a,b,c,・・・・の字そのものを、「ローマ字」という用語によって訓令式などの表記法をさしています。
<注2>
複雑になりすぎるので、1.2.では語末の「ん」や母音が続く場合の「ん」の発音についてはふれませんでした。
<注3>
この章を書くにあたって参考にした文献は次のとおりです。
  • 大野晋(1980)『日本語の世界1 日本語の成立』中央公論社。
  • 小松英雄(1981)『日本語の世界7 日本語の音韻』中央公論社。
  • 森田武(1977)「音韻の変遷(3)」岩波講座 日本語5『音韻』岩波書店。
なお、1.3.の内容は引用したものではありませんが、同じ趣旨のことが
  • 別宮貞徳(1977)『日本語のリズム 四拍子文化論』講談社現代新書。
  • 金田一春彦(1988)『日本語』(上・下)岩波新書。
  • Poser, William J. (1990) "Evidence for Foot Structure in Japanese," Language Vol. 66, No.1, pp.78-105.
にも見られます。

2.ことばの単位 [形態論]

<注1>
2.2.-2.4.では「語幹」という用語を使わずに「動詞の意味を表す形態素」という言い方が用いられています。複合語幹などを考慮すると「語幹」という用語の方が適切かもしれませんが、「形態素」という概念に少しでも慣れるように、あえてこうしました。
<注2>
この章を書くにあたって参考にした文献は次のとおりです。
  • 大野晋(1978)『日本語の文法を考える』岩波新書。
  • 小松英雄(1981)『日本語の世界7日本語の音韻』中央公論社。
  • Ito, J. & Mester, R.-A. (1986) "The Phonology of Voicing in Japanese: Theoretical Consequences for Morphological Accessibility", Linguistic Inquiry, Vol.17, No.1, pp.49-73.
  • Otsu, Yukio (1980) "Some Aspects of Rendaku in Japanese and Related Problems," MIT Working Papers in Linguistics. Vol.2, pp.207-227.

3.文の成り立ち [統語論]

<注1>
例文については私の直観による判断が *,??,?でしるしてありますが、中には判断のわかれるものがあるかもしれません。各自が判断を試みることそのものを目標としていますので、授業ではいろいろな判断を尊重して進めることを希望しています。
<注2>
3.5.では「〜こと」の中に「〜は」があらわれにくいことに注目して説明してあります。本質的な属性を述べるときなどは「〜こと」の中に「〜は」があらわれることが可能ですが、全体的な傾向としては認められると判断しました。
<注3>
この章を書くにあたって参考にした文献は次のとおりです。
  • 大野晋(1978)『日本語の文法を考える』岩波新書。
  • 久野すすむ(1973)『日本文法研究』大修館書店。
  • 寺村秀夫(1973)「テンス・アスペクト・ヴォイス」国語シリーズ別冊2『日本語と日本語教育−文法編−』文化庁。
  • 寺村秀夫(1982)『日本語のシンタクスと意味I』くろしお出版。
  • 寺村秀夫(1984)『日本語のシンタクスと意味II』くろしお出版。
  • 益岡隆志・田窪行則(1987)『日本語文法セルフ・マスターシリーズ格助詞』くろしお出版。
  • 三上章(1953)『現代語法序説』刀江書院。(1972年 くろしお出版より復刊)
  • 三上章(1960)『象は鼻が長い』くろしお出版。

4.さまざまなことば [外国語]

この章はそれぞれ参考事項も書き加えてあるため、他の章とくらべて1節の内容が多少もりだくさんになっています。

5.言語の共通点 [様々な言語学]

この章を書くにあたって参考にした文献は次のとおりです。

  • Akmajian, A.,et al. (1984) Linguistics, an Introduction to Language and Communication. The MIT Press, Cambridge.
  • Chomsky, N. (1988) Language and Problems of Knowledge, The Managua Lectures, The MIT Press, Cambridge.
  • 河内十郎 (1972)「脳のはたらきと言語」、『言語』vol.1,10月号,pp.31-37.
  • 正高信男(1987)「サルはヒトのように発声できるか」、『言語』vol.16,11月号,pp.37-45.

 さらに言語学に興味をもってくれた方々に私が紹介しているのは次のような本です。

  • 西田龍雄他(1986)『言語学を学ぶ人のために』世界思想社。
  • 柴谷方良他(1982)『言語の構造−理論と分析』くろしお出版。
  • 田中春美他(1975)『言語学入門』大修館書店。
  • 益岡隆志・田窪行則(1989)『基礎日本語文法』くろしお出版。
  • 金田一春彦(1988)『日本語』(上下)岩波新書。
  • Chomsky, N. (1988) Language and Problems of Knowledge, The Managua Lectures, The MIT Press, Cambridge.
  • Fromkin, V. & Rodman, Robert (1988) An Introduction to Language, Holt, Rinehart and Winston, Inc., New York.