Two Types of Dependency : 振りかえって思うこと

 Two Types of Dependency は、書いてからまだ時間がほとんど経っていないため、あまり客観的に見ることができません。「大変だったなあ」という感想が先に立ってしまって、自分でも、まだちゃんと読み直す気力が出ないでいます。


 内容面で自分なりに評価をしているのは、(i) 1つ1つの現象を吟味する際にかなりの手間をかけていること、それから、(ii) 他の論文/著作などに言及する際、ページ数や例文番号まで記すことによって、読んでいる人が必要性を感じた場合に原典をチェックできるようにしていることです。

 文の容認可能性を判断する場合には、実に様々な要因が関与してくると思いますが、言語学の議論の中で用いる場合には、それらをすべて考慮に入れた上で現在問題にしている面だけを浮き彫りにすることが必要だと思います。Two Types of Dependency の中には、かなり複雑な形をした例文が多く見られます。「もっと単純な例でポイントを示すことができるのに」と思う方も多いかもしれません。しかし、ほとんどの場合、現在議論の対象にしていない要因を排除しようとした結果、例文が複雑になっているのです。何を目指してどのように例文に工夫をしているか、可能な限り、本文でも説明していますが、何の説明もないままされている「工夫」もあります。それは、性質がまだよくわかっていない要因もあるためです。すべての要因の性質がはっきり理解できれば、コントロールの仕方も明らかになるので、今よりも単純な形の例文が使える場合が増えると思いますが、現時点では「疑わしきは使わず」という原則に従ったので、中には、無駄に複雑になってしまっているものもあるだろうと思います。将来的には、そのあたりをできるだけ改善していきたいと思っています。

 出典に関しては、以前は、関連する本/論文が言及されていれば、それでいいと思ってしまっていました。この Two Types of Dependency を書くにあたって、孫引きを避けようと思い、他の論文で言及されているものも、できる範囲で原典を参照したのですが、すると、原典とは微妙に異なる言い方になってしまっているものや、原典には該当部分がないものまであったのです。もちろん、私が見落としている可能性もありますが、こういうことも、本/論文に言及する際にページ番号などを必ず付けるようにしておきさえすれば、防げることだろうと思いました。また、自分の記憶の中では、「確かに、この論文の中にそういうことが述べてあったはずだ」と思い込んでいて、いざページ数を書こうとしてさがしたら見つからず、自分の思い違いに気づかされた、ということもありました。もし、ページ数を書くということを自分に課していなければ、この思い違いを世間に公表することになったのだなあと冷や汗が出たものです。

 この2つの点は、非常に重要なことだと思うので、そのせいで多少読みづらくなったとしても、今後も曲げたくないと思っています。


 具体的な内容としては、summary を参照していただければいいのですが、日本語の現象を説明するべく理論を考えて、その結果、英語においてあまり知られていなかった違いまで予測することができたのが少し自慢です。その他の言語に関しては、まだ体系的な調査は行なっていませんが、大きな方向性としては、ほぼ、ここで述べている予測通りになっているようで、どの言語にも何らかの形で存在する側面を描くことができたのではないかと自負しています。

 ただ、理論としては、いくつか詰められていない部分もあるので、そのあたりは今後の大きな課題です。特に、chapter 5 は、そこまでで提示されてきた syntax の仕組みと semantics との関係を述べた部分なのですが、メカニズムが詳しく書いてある部分もある一方、極端に略式にしか書いていない部分もあり、ここは、かなりわかりにくくなってしまっていると反省しています。

 また、chapter 2 は、本来「予備知識」という位置づけのはずの部分なのですが、そのほとんどが今まで発表されてきていないことであるため、その妥当性を論じる必要があり、結果的に全体の約半分のページ数をとってしまうことになりました。これだけたくさんのページ数がとってあると、(当然のことながら)ここの部分が本論であると錯覚する人が結構いるようです。この点についても、今後なんとか改善しなければならないと思っています。


 以上が、現時点で自分として気がついている反省点の主要なものですが、ほかにもたくさん至らない部分があると思います。この博士論文の内容を今後の研究の基盤としていきたいと思っていますので、また、厳しいご意見をお聞かせいただければ幸いです。

1999.5.30.

上山あゆみ