PトキニQ―事態の順序と複文における時制解釈―

言語学4年 山田和美


1. 「PトキニQ」構文の時間関係

 PとQという2つの事態がある場合、その時間関係には、次の5つの論理的可能性がある。

 

(1) a. P⊃Q:Pの表す事態の中にQの表す事態が含まれる。

b. Q⊃P:Qの表す事態の中にPの表す事態が含まれる。

c. P=Q:Pの表す事態とQの表す事態が全く同時に起こる。

d. P→Q:Pの表す事態の中にQの表す事態が含まれず、Pの後にQが生起する。

e. Q→P:Qの表す事態の中にPの表す事態が含まれず、Qの後にPが生起する。

 

 「PトキニQ」という形の文は、「[P太一くんに会った]時に[Qお年玉を渡した]」のように、Pで指定された事態がQで指定された事態の発生する/した時を指定するというはたらきを持つ文である。本論文では、この時間関係にどのような制限があるのかということを考察した。

2. 容認可能な「PトキニQ」の時間関係

 「PトキニQ」が容認可能になるのは、次の3つの場合のみであり、そのほかの時間関係は容認されない。

2.1. 「PトキニQ」が容認可能になるケース1

 まず、「PトキニQ」が容認可能になる場合の1つ目は、(2)である。

 

(2)   Qの表す事態が出来事を表し、PとQの時間関係がP⊃Qになっているとき、「PトキニQ」という文は容認される。

(3)   反省の気持ちが強い時に捕まった。

 

2.2. 「PトキニQ」が容認可能になるケース2

 また、(4)の場合も「PトキニQ」が容認可能になる。

 

(4)   Qの表す事態が出来事を表し、PとQの時間関係がP = Qになっているとき、「PトキニQ」という文は容認される。

(5)   ちょうどくしゃみした時に花火が上がった音がした。

 

2.3. 「PトキニQ」が容認可能になるケース3

 Qの表す事態が状態を表す場合、(2)とは逆に、(6)の場合に「PトキニQ」は容認可能となる。

 

(6)   Qの表す事態が状態を表し、PとQの時間関係がQ⊃Pになっているとき、「PトキニQ」という文は容認される。

(7)   捕まった時にすべきことがすべて終わっていた。

 

3. 文脈の設定による容認可能性の変化

 本論文の主張は「PトキニQ」が容認されるのは、(2)(4)(6)の場合のみだということである。そのため、(8)のような文は、普通、容認されない。

 

(8) a. *彼は辞世の句を詠んだ時に死んだ。(Q=出来事、P→Q)

b. *僕が母親の方についていった時に親が離婚した。(Q=出来事、Q→P)

 

 しかし、(8)のような文でも文脈によっては容認不可能とは言い切れないと思う人がいるかもしれない。例えば、(8a)も以下のような文脈をつけて読めば、確かに容認可能になる。

 

(9)   彼には死にそうになった時が二回ある。一回目は、食中毒になりのたうち回って苦しみ、家族を呼んでお別れの言葉を交わした時。二回目は、癌で寝たきりになってから、もう今日こそは駄目だと本人が思って辞世の句を詠み始めた時。一郎くんは、彼がご家族とお別れの言葉を交わした時に死んだと勘違いしているようだが、それは違う。彼は辞世の句を詠んだ時に死んだ。

 

 ここで注目されるのは、容認可能になっている場合は、PとQの時間関係がいつのまにかP⊃Qとなっているという点である。(9)では、「辞世の句を詠んだ時」が指定する時間が、(8a)のように「辞世の句を詠んでいるその最中のみ」という狭い範囲ではなくなっている。よって、「辞世の句を詠んだ」という事態の中に「死んだ」という事態が内包されるP⊃Qという時間関係に解釈が可能になり、(2)で述べた主張に従っているのである。つまり、(8a)が(9)の文脈で容認可能になるという事実そのものが、主張の裏づけになっている。(8b)も、次の文脈で考えれば、容認可能になりうる。

 

(10)  アカネちゃんのご両親は…確か、僕の母親が父親に愛想を尽かして家を出ていった頃に離婚なさったと記憶している。あれ?違うかな、僕が両足を骨折して入院した時かな?アカネちゃんのご両親が離婚なさったという話は、彼女から手紙で聞いたんだ。僕は母親についていって一緒にあの街を出たから、彼女は手紙で知らせてくれたんだ。両足を骨折した時に離婚なさっていたのだったら、その時は僕もまだあの街にいたから、アカネちゃんから直接その話を聞いたはずだし。そうだ、思い出してきたぞ。僕が母親の方についていった時に親が離婚したんだ、アカネちゃん。

 

 やはりこの場合においても、容認可能になる文脈ではPとQの時間関係がいつのまにかP⊃Qとなっている。(10)では、離婚したのは「僕」の親ではない。よって、「親の離婚」→「母親についていく」という順番にとらわれることなく解釈ができるようになる。この変化によって時間関係がP⊃Qに解釈できるようになり、(2)に従って容認可能になる。