「うち」と「なか」には、同じ意味だと考えられる用法と意味の異なる用法の2つがある。
(1) 美術館で見た{うち/なか}で、最も印象に残っているものはミイラです。
(2) 母が帰ってこない{うち/*なか}にゲームを存分に楽しむ。
(3) インターネットが普及する{*うち/なか}、うちにはまだファックスもない。
この論文では、「うち」と「なか」がそれぞれどのような機能を持っているのか考察していく。
「うち」には、主節にある名詞句を選び出す範囲を「うち」節で指定する機能がある。
(4) 私が今までで会ったうちで彼が一番素敵な人だ。
選び出すべき名詞句が必要:
(5) 母:りんごをむいてちょうだい。
娘: a. 3個あるうちで何個むいたらいいの?
b. *3個あるうちでφいいの?
また、「うち」には、「うち」節が主節の動作を完了する期間の条件になっているものがある。
(6) 雨がやんでいるうちに買い物を済ませる。
<図> 省略
この場合、主節の動詞には主体の動作を表す動詞、つまり、意志動詞が要求される。
(7) a. 親にばれないうちに赤点の答案用紙を捨ててしまった。
b. 友人に勝利を譲るため、ゴールしないうちに転んだ。
c. 次の彼氏ができないうちに前の彼氏のことは忘れる。
d. 最近の小学生は成長しきらないうちからダイエットをして痩せる。
形容詞・形容動詞は使えない:
(8) 母が帰ってこないうちに弟はゲームを存分に{楽しむ/*楽しい}。
また、「うち」節と主節の表す動作の同時進展性を強く示すタイプの「うち」もある。
(9) 鍋を食べるうちに体があったまった。
<図> 省略
この場合、主節の動詞には、主体の変化を表す動詞、つまり、無意志動詞が要求される。
(10) a. 長々とメールをしているうちに言いたいことを忘れてしまった。(cf.(7c))
b. 締め切りが迫り、食事をとばしているうちに彼はすっかり痩せた。(cf.(7d))
ただし、タイプBの「うち」と解釈は似ているものの、主節動詞が意志動詞、無意志動詞、両方使える点で異なっているものもある。
(11) a. 大掃除をするうちに大切にしていた友人からの手紙を捨ててしまった。(cf.(7a))
b. 寝不足でふらふらと歩いているうちに電柱にぶつかって転んだ。(cf.(7b))
「なか」にも、「うち」と同様、範囲を指定する機能がある。
「なか」節と主節の動作の同時進展性を表すタイプの「なか」もある。
(12) a. 子供たちは間違いを繰り返すなかで正しい文法を身につける。
b. 毎日勉強してきたなかで努力に勝るものはないと気づいた。
c. 毎日勉強するなかから疑問が生まれる。
「なか」節が主節の行われる状況・環境を説明するタイプの「なか」もある。
(13) a. 雨が降るなかでマラソン大会は行われた。
b. 皆が勉強するなか、彼はゲームをしていた。
c. 先生が講義をするなか、私は次の時間の予習をしていた。
範囲指定 | 期間の条件 | 同時進展性 | 状況説明 | |
うち | ○ | ○ | ○ | × |
なか | ○ | × | ○ | ○ |
工藤真由美『アスペクト・テンス体系とテクスト―現代日本語の時間表現―』(1995)ひつじ書房