形式副詞ホドの非常の用法について
応用言語学専攻 1LT99097W 為頼 梨絵
1. はじめに
形式副詞の「ホド」には、次のような非常の程度を表す用法がある。(以下、このようなホドを「非常のホド」と呼ぶ。)
(1) a. 驚くほどよく落ちる。
b. 彼はしつこいほどメールを送ってきた。
c. 君の気持ちは痛いほど分かる。
ところが、(1)と似た文でも容認可能性が低い場合がある。
(2) a. *[かなり驚く]ほどよく落ちる。
b. *彼は[相当しつこい]ほどメールを送ってきた。
(3) a. *彼女の話は明らかなほど嘘くさかった。
b. *彼はひどいほど疲れていた。
この論文では、(1)と(2),(3)の違いがどのような条件に基づくのかということを考察する。
2. 本論文での提案
2.1. 程度を表す副詞
まず(1a,b)と(2a,b)の比較により、次のことが条件として考えられる。
(4) 補足成分に“程度を表す副詞”が付いていてはいけない。
2.2. 補足成分の述語のタイプ
一方(3)は、補足成分に程度を表す副詞がついていないのに容認可能性が低い。これに対し、次の文は容認可能性が高い。両者の補足成分にはどのような差があるのだろうか。
(3)’ a. 彼女の話はあきれるほど嘘くさかった。
b. 彼は死ぬほど疲れていた。
(3)と(3)’の比較により、次のことが条件として考えられる。
(5) 補足成分は、その述語のargumentに必ず有生物が関わる「有生述語」でなければならない。
2.3. 補足成分が節の場合
ところが、一見、上の一般化の例外に見える場合がある。
(6) 彼女の話は子供にとっても明らかなほど疑わしかった。
(7) a. いつも冷静な彼がかなり動揺したほど、そのニュースは衝撃的だった。
b. 彼女の話はその慌てた態度からも明らかなほど疑わしかった。
上の(7a)は補足成分に「かなり」という“程度を表す副詞”が付いており、(7b)の補足成分の述語は「非有生述語」であるが、これらは「非常のホド」の用法として容認可能と思われる。このように、(4),(5)の条件に反していても文が容認できるのは、これらの補足成分が節であるためだと考えたい。
(8) ホドの補足成分が節の場合は、補足成分に特に条件は求められない。
そのため補足成分は内容も長さも実にさまざまであり、中には(9c)のように慣用化した表現も多い。
(9) a. この映画は何度見ても飽きないほど好きだ。
b. 天地がひっくりかえるかと思ったほどすごい雷鳴だった。(奥津 1986:63)
c. 顔から火が出るほど恥ずかしい。
3. 最後に
(10) 奥津 (1986):
“「非常のホド」の補足成分は、その内容が非常の事柄を表している“
中には、次のように“通常の事柄“が文脈によって“非常の事柄“になる場合もある。
(11) 弾丸が6発あたっても死なない ほど 頑健だった。(奥津 1986:56)
奥津(1986)は、様々な用法の「ホド」を分類してはあるが、その補足成分に求められる条件については、あまり述べられていない。
主要参考文献
奥津敬一郎 (1986)「形式副詞」『いわゆる日本語助詞の研究』凡人社 pp.28-104.