接尾辞‐ゲについて

言語学・応用言語学専攻 1LT04072Y 高波 裕


1. 問題

(1)  最近、本来あった‐ゲの用法が変化してきて、‐ソウの用法に近づいているのではないか?


2. 本来の‐ゲの用法

(2)  彼女は悲しげな様子で歩いている。

(3)  彼は意味ありげな言葉を残して去っていった。

 ‐ゲと‐ソウには次のような用法の違いがある。

(4)  表現主体にとって感情や属性が明らかな場合
    a. 庄吉は上唇を隠すため口髭を伸ばして今日に及んでいる。太く逞しげな髭である。
    b. *庄吉は上唇を隠すため口髭を伸ばして今日に及んでいる。太く逞しそうな髭である。

(5)  ‐ゲが付加できる形容詞
    a. 彼は涼しげな洋服を着ている。
    b. おばあさんが重たげな荷物を持っている。

(6)  ‐ゲが付加できない形容詞
    a. ??彼は暖かげな洋服を着ている。
    b. ??おばあさんが軽げな荷物を持っている。
    c. ??道に沿って植えられている木々の先が赤げに見える。

(7)  本来の‐ゲ
    a. 直接体験していることでも使える。
    b. どんな形容詞にでも付くとは限らない。

(8)  ‐ソウ
    a. 直接体験していることには使えない。
    b. ほぼどのような形容詞にも付く。


3. アンケート調査

 以下のような4種類の‐ゲや‐ソウを含んだ実験文を作成し、その‐ゲや‐ソウを用いた表現の容認度を5段階(1〜5)で評価してもらった。

    a. 直接体験を伴い、‐ゲを用いた文
    b. 直接体験を伴い、‐ソウを用いた文
    c. 直接体験を伴わず、‐ゲを用いた文
    d. 直接体験を伴わず、‐ソウを用いた文


直接体験を伴う実験文での結果  直接体験を伴わない実験文の結果
形容詞 評価の平均形容詞 評価の平均
a.‐ゲ b.‐ソウc.‐ゲ d.‐ソウ
近い 1.78 2.34近い2.624.69
ダサい2.193.00やばい3.134.38
激しい2.342.41短い2.944.63
古臭い2.913.44厚い1.914.59
重々しい3.163.13高い2.694.56
ダルい1.662.31早い1.884.47
おもしろい2.092.81すばやい2.254.59
口寂しい1.911.69辛気臭い3.254.13
恐ろしい1.971.94うるさい2.284.00
寝苦しい1.782.47みすぼらしい2.473.84
ウザい2.193.41ふさわしい2.443.78
回りくどい2.192.00すばらしい1.914.44
そそっかしい2.723.00しつこい2.284.53
汚い2.091.94馴染み深い2.694.44
寒い1.412.50おいしい2.254.72

aとbの容認度には有意な差はほとんど見られなかったが、cとdの容認度には有意な差が見られた。


4. 結論

(9)  最近の‐ゲ
    a. 直接体験していることには使えない。(‐ソウと同じ)
    b. ほぼどのような形容詞にも付くとは言えない。(本来の‐ゲのまま)



5. 参考文献

ケキゼ・タチアナ(2000)「『(〜し)そうだ』の意味分析」『日本語教育』107:7-15.

黄其正(2004)『現代日本語の接尾辞研究』. 広島:渓水社

中村亘(2000)「接尾辞『げ』の意味・用法 ―「そう」との事態把握の違いを通じて―」『早稲田大学大学院研究紀要、第3分冊、日本文学演劇美術史日本語文化』: 73-82. 東京:早稲田大学大学院文学研究科.