「-sa」と「-mi」は、どちらも形容詞を名詞化する接尾辞であるが、同義ではない。
(1) a. スープのあたたかさが丁度良い
b. *スープのあたたかみが丁度良い
(1a)が許容できるのに、(1b)が許容できないのはなぜだろうか?
(2) 「-sa」には次の2つの意味がある。
程度の意味 ... ≒「どれくらい〜か」
状態の意味 ... ≒「現在は〜である(けれども、過去・未来は〜であったとは限らない)」
(3) 「-mi」には次の2つの意味がある。
事実の意味 ... ≒「過去や未来がどのような状況かは全く考慮に入れず、現在の〜という状況だけを述べる」
場所の意味 ... ≒「〜という特徴をもった場所(点)」
(4) 「-sa」の2つの意味のうちどちらが採用されるかは述語の意味的性質によって決まる。(=主語や語幹形容詞が同じでも述語が違うことで「-sa」の意味が変わりうる。)
(5) 「-mi」の2つの意味のうちどちらが採用されるかは、語幹形容詞の意味的性質によって決まる。(=主語や述語が同じでも語幹形容詞が変わることで「-mi」の意味が変わりうる。)
(6) a. 太郎はおもしろさが丁度良い (「-sa」は状態の意味になる)
b. 太郎はおもしろさがわからない (「-sa」は程度の意味になる)
c. 太郎はおもしろさを表現する (「-sa」は状態、程度の意味になる)
d. *太郎はおもしろさにでる (「-sa」はどちらの意味にもならない)
(7) a. このケーキのあまさは上品だ (「-sa」は状態の意味になる)
b. このケーキのあまさは計り知れない (「-sa」は程度の意味になる)
c. このケーキのあまさは丁度いい (「-sa」は状態、程度の意味になる)
d. *このケーキのあまさに登る (「-sa」はどちらの意味にもならない)
(8) a. この橋の長さは尋常ではない (「-sa」は状態の意味になる)
b. この橋の長さはわからない (「-sa」は程度の意味になる)
c. この橋の長さを調べる (「-sa」は状態、程度の意味になる)
d. *この橋の長さを切る (「-sa」はどちらの意味にもならない)
(9) a. 太郎は山のおもしろみを経験する (「-mi」は事実の意味になる)
b. 太郎は山のたかみを経験する (「-mi」は場所の意味になる)
c. *太郎は山の低みを経験する (「-mi」はどちらの意味にもならない)
(例外) 太郎は山のふかみを経験する (「-mi」は事実、場所の意味になる。)
(10) a. 花子は太郎のくるしみを感じる (「-mi」は事実の意味になる)
b. 花子は太郎のつよみを感じる (「-mi」は場所の意味になる)
c. *花子は太郎のあさみを感じる (「-mi」はどちらの意味にもならない)
また、状態と事実は似た意味だが、次のような文の場合に2つの意味の違いが明らかになる。
(11) a. 春子の手紙は夏子の手紙の重さを超えた
(「重さ」は"重量"の状態を表す。過去・未来に増減可能)
b. 春子の手紙は夏子の手紙の重みを超えた
(「重み」は"重要性"の事実を表す。過去・未来に増減不可能)
(12) a. 太郎は母からの贈り物の重さを知る
b. 太郎は母からの贈り物の重みを知る
森田良行(1989)『基礎日本語辞典』 角川書店
新村出編(1998)『広辞苑』第五版 岩波書店