(1) a. 太郎は明日、友達と遊びに行くだろう。
b. 太郎は明日、友達と遊びに行くのだろう。
(2) a. 太郎は明日、友達と遊びに行くかもしれない。
b. 太郎は明日、友達と遊びに行くのかもしれない。
(3) 問題:「かもしれない」、「だろう」に「の」が入ると文が与える印象が変わる。実際には何が変わっているのか。
(4) 提案:
a. 「かもしれない」「だろう」に「の」が入ると確信度Aが下がる。
b. 「だろう」に比べて、「かもしれない」は確信度Bが低い。
(5) a. 明日は雨が降るでしょう。(確信度A高)
b. 明日は雨が降るのでしょう。(確信度B低)
気象予報士は、確信度が高く聞こえる必要があるので、(5a)は使うが、(5b)は使わない。
(6) a. *明日は雨が降るだろうし、降らないだろう。(確信度B高)
b. 明日は雨が降るかもしれないし、降らないかもしれない。(確信度B低)
二律背反の現象を同時に推量する文では、話者が自信を持って推量についてしていないので、(6a)は使えない。
(7) 補足的な仮定:
a. 「だろう」「かもしれない」で推量する事柄は、推量している者が推量している時点では知らない内容であり、知っている内容であってはならない。
b. 過去のことは確定したことであるのに対し、未来のことは不確定である。
(8) A「地面が濡れてるなあ。」
B1「昨日、雨が降ったのだろうね。」
B2「??昨日、雨が降っただろうね。」
(9) a. ??気持ち悪い。ちょっと飲みすぎちゃっただろう。
b. ??私、彼を怒らせちゃっただろう。
B2は、推量している者が推量している内容を知っているような感じを与えてしまっている。これは過去のことという確定していることを推量している文で、確信度A、確信度Bがともに高い「だろう」という形を使っているためだと考えることができる。
(10) a. 彼がいたら、こんなに苦労しなかっただろう。
b. もし信長が生きていたら、天下統一を成し遂げただろう。
c. もし昨日台風が直撃していたら、学校は休みになっただろう。
過去のことを推量する場合でも、仮定をした上での推量だと自然になる。仮定の世界の物事を推量する場合には、確信度が高くてもかまわないためだと思われる。
(11) a. (私は)明日、友達と遊びに行くかもしれない。
b. ??(私は)明日、友達と遊びに行くのかもしれない。
(12) a. (私は)明日の会議には、遅れるかもしれない。
b. ??(私は)明日の会議には、遅れるのかもしれない。
「かもしれない」は自然だが、「のかもしれない」は不自然になる。これは、話者がコントロールできる内容で、話者にとってはっきりした内容であるのに、確信度A が低い「のかもしれない」を使っているためだと思われる。
だからこそ、一人称が主語でも、その内容が話者によってコントロールできないものであるならば、「のかもしれない」でも容認可能となる。
(13) a. 俺はあいつに殺されるのかもしれない。
b. 私はこのまま死ぬのかもしれない。
c. 私は彼に恨まれているのかもしれない。
佐治 圭三(1991)『日本語の文法の研究』 ひつじ書房.
田野村 忠温(1990)『現代日本語の文法T「のだ」の意味と用法』 和泉選書.
野田 春美(1997)『「の(だ)」の機能』 くろしお出版.
橋本 進吉(1934)『国語法要説』 明治書院(『国語法研究』岩波書店1948所収).