オノマトペ語幹の拡張と品詞交替可能性

言語学4年 榊原愛


1. 問題提起

 

(1)  オノマトペの「品詞交替」の例:

   冬場の乾燥で{OKのどがいがいがと痛む/OKのどがいがいがする/OKのどがいがいがだ/OKいがいがののど}。

 

(2)  「品詞交替」しないオノマトペの例:

   迷子だろうか、{OK小さな女の子がえんえんと泣いている/*小さな女の子がえんえんする/*小さな女の子がえんえんだ/*えんえんの小さな女の子}。

 

(3)  部分的にしか「品詞交替」しないオノマトペの例:

   {OK風船がぱんぱんに膨らむ/*風船がぱんぱんする/ok風船がぱんぱんだ/OKぱんぱんの風船}。

 

(4)  問題:

   オノマトペの品詞交替とオノマトペの機能的特徴は、まったく恣意的なものなのか。

 

2. 本論文の主張

 本論文では、(4)の問題に対して、オノマトペの品詞交替可能性は恣意的なものではなく、副詞用法で「オノマトペ + と」、「オノマトペ + に」、あるいはその両方の形をとるかによって、それぞれ共通した品詞交替可能性を持っているということを主張する。

 

(5)
  意味分類 +する +だ +の 例文
オノマトペ+と 感覚 (6)
音声/感情・態度 (7)(8)
/動き・動作/状態 × × × (9)(10)
オノマトペ+に 感覚 (11)
感情・態度/動き・動作 × (12)(13)
状態 (14)
× (15)
オノマトペ+と/に 感覚/感情・態度/動き・動作/状態 (16)(17)

 

(6)   昨日の寒さとは打って変わって、{OK今日はぽかぽかと暖かい/OK今日はぽかぽかする/OK今日はぽかぽかだ/OKぽかぽかの今日}。

 

(7)   築100年にもなる小学校なので、誰かが歩くたびに{OK床がぎしぎしときしむ/OK床がぎしぎしする/OK床がぎしぎしだ/OKぎしぎしの床}。

 

(8)   結婚記念日にも関わらず父の帰りが遅いので、{OK母はいらいらと落ち着かない/OK母はいらいらする/OK母はいらいらだ/OKいらいらの母}。

 

(9)   往年のアイドルが結婚したと聞いて、年甲斐もなく{OK父はおいおいと泣いた/*父はおいおいする/*父はおいおいだ/*おいおいの父}。

 

(10)  校舎の窓ガラスを割ってしまったことを、{OK武はおずおずと打ち明けた/*武はおずおずする/*武はおずおずだ/*おずおずの武}。

 

(11)  話題の無添加石鹸で洗顔した効果なのか、{OK喜美子の肌はすべすべに若返った/OK喜美子の肌はすべすべする/OK喜美子の肌はすべすべだ/OKすべすべの喜美子の肌}。

 

(12)  裕也の浮気に、{OK時枝はかんかんに怒っている/*時枝はかんかんする/OK時枝はかんかんだ/OKかんかんの時枝}。

 

(13)  何者かによって、{OKカーテンがずたずたに切り裂かれている/*カーテンがずたずたする/OKカーテンがずたずただ/OKずたずたのカーテン}。

 

(14)  ビールの飲み過ぎで、{OK腹がたぷたぷに膨れる/OK腹がたぷたぷする/OK腹がたぷたぷだ/OKたぷたぷの腹}。

 

(15)  信頼していた仲間に裏切られ、{OK照実の心はぼろぼろに傷ついていた/*照実の心はぼろぼろする/OK照実の心はぼろぼろだ/OKぼろぼろの照実の心}。

 

(16)  油で、{OK手がべたべた(と/に)汚れる/OK手がべたべたする/OK手がべたべただ/OKべたべたの手}。

 

(17)  2日かけて煮込んだおかげで、{OKお肉がとろとろ(と/に)溶けていく/OKお肉がとろとろする/OKお肉がとろとろだ/OKとろとろのお肉}。