日本語の同語反復述語文の意味と特性

言語学4年 西山なつ紀


1.同語反復述語文

(1)  a. 雨が止んだことは止んだが、地面が濡れていてグラウンドが使えない。
   b. 雨が止むには止んだが、地面が濡れていてグラウンドが使えない。

「VことはV」と「VにはV」は、ほとんど同じ意味を持つが、Vに「(家が)燃える」、「(事故に)遭う」などあまり望ましくない事態が来たとき、「VにはV(が〜)」は、「わざとVした」「Vすることを望んでいる」という含意が生じる傾向がある。

(2)  a. ジョンの家は燃えたことは燃えたが、幸い火元の台所が燃えただけで済んだ。
   b. ジョンの家は燃えるには燃えたが、幸い火元の台所が燃えただけで済んだ。

同語反復述語文と述語を反復させない文とは意味がどのように違うのだろうか?


2.同語反復述語文の2つの意味

同語反復述語文には、(i) 「Vそのものに問題が生じている」という意味の場合と、(ii) 「Vのあとに問題が生じている」という意味の場合とがある。

(5) 「Vそのものに問題が生じている」という意味の場合:
   a. ジョンの家は燃えたことは燃えたが、幸い火元の台所が燃えただけで済んだ。
   b. ジョンの家は燃えたが、幸い火元の台所が燃えただけで済んだ。

(6) 「Vのあとに問題が生じている」という意味の場合:
   a. ジョンの家は燃えたことは燃えたが、ジョンは貯金があったのですぐに新居を購入した。
   b. ジョンの家は燃えたが、ジョンは貯金があったのですぐに新居を購入した。


3.動詞そのものの意味と同語反復述語文の解釈

「Vそのものに問題が生じている」場合の実際の解釈は、そのVの意味によって、様々な幅を持つ。

(8) 「Vしようとしたが、その程度が低い」という解釈になるもの
   a. 花子はピアノが弾けることは弾けるが、人に教えられるほどではない。
   b. 父親は煙草を吸うことは吸うが、ヘビースモーカーと呼ばれるほどではない。

(9) 「Vするが頻度が低い」という解釈になるもの
    太郎は車に乗ることは乗るが、雨の日しか車を使わない。

(10) 「VするがほとんどVしなかった」という解釈になるもの
   a. 赤ちゃんは床の上を歩いたことは歩いたが、1、2歩進んで転んでしまった。
   b. 花子は本屋で働いていることは働いているが、働いているのか遊んでいるのかわからない。

そのため、Vの意味によっては、「Vそのものに問題が生じている」という意味を持たない場合も出てくる。

(12) 第三種「瞬間動詞」 「止む」
   a. 雨が止んだことは止んだが、地面が濡れていてグラウンドが使えない。
   b. ??雨が止んだことは止んだが、まだ少し霧雨が降っている。

(13) 第一種「状態動詞」 「切れる」
   a. 父のナイフはよく切れることはよく切れるが、ダイヤモンドは切れない。
   b. 父のナイフはよく切れることはよく切れるが、持ち手が短くて使いにくい。

(14) 第二種「継続動詞」 「読む」
   a. 太郎は朝刊を読んだことは読んだが、テレビ欄しか読んでいない。
   b. 太郎は朝刊を読んだことは読んだが、夕方にはその内容を忘れてしまっていた。

(15) 第四種の動詞 「似ている」
   a. 花子は太郎に似ていることは似ているが、二人を見間違えるほどではない。
   b. 花子は太郎に似ていることは似ているが、花子はそれを心外に感じている。



参考文献

影山太郎(1993)『文法と語形成』東京: ひつじ書房.

影山太郎(1996)『動詞意味論』東京: くろしお出版.

金田一春彦(1950)「国語動詞の一分類」『言語研究』15: 48-63.(金田一春彦(編)(1976)『日本語動詞のアスペクト』: 5-26. 東京: むぎ書房. に所収).

工藤真由美(1995)『アスペクト・テンス体系とテクスト』東京: ひつじ書房.

前田直子(1995)「ケレドモ・ガとノニとテモ」宮島達夫・仁田義雄(編)『日本語類義表現の文法(下)』: 496-505. 東京: くろしお出版.

南不二男(1974)『現代日本語の構造』東京: 大修館書店.