肯定・否定表現における日本語程度副詞について
〜「とても」「なかなか」「まったく」それぞれの差異に注目して〜

言語学・応用言語学専攻 1LT01135W 松田明子

0.はじめに

(1) 仁田(2002)による程度副詞の分析:

   a. 程度限定(述語の属性・状態の限定)   彼は非常に大きい

   b. 数量限定(対象の数量や動きの量の限定) お酒をたくさん飲んだ

1.否定表現における各副詞の機能

(2) 新しく提案したい機能:

   a. 既遂の限定
      動詞の表す動きや状態の変化が起き、事態が新たな状況に突入したかどうかの限定

   b. 可能性の限定
      動詞が表す動きや変化が起こる可能性の限定

(3) 「とても

     可能性の限定:こんな状況じゃとても死ねない

(4) 「なかなか

   a. 数量限定: いくらくすぐっても、なかなか笑わない
             この国の王様はなかなか笑わない

   b. 既遂の限定: いくらくすぐっても、なかなか笑わない
               この国の王様はなかなか笑わない

(5) 「まったく

    a. 程度限定: あの映画はまったく面白くなかった

    b. 数量限定: リクエストした曲はまったく流れなかった

    c. 可能性の限定: 財政状況の改善はまったく望めない

2.肯定表現における各副詞の特徴

2.1‘評価’の要素

 仁田(2002)では、「なかなか」は純粋程度副詞であるから、動きの量の非限界性しか持たない動詞(走る、吹く、押す、等)とは共起しないと述べられている。しかし、実際には次の例は容認可能である。

(6)     なかなか走るねぇ

(7) 提案: 「なかなか」は、‘評価’の要素を持っている。
    cf. なかなかだね

(8) ‘評価’の要素を持つ副詞「けっこう」

    a. (何度も素振りをするバッターを見て)けっこうやるねぇ

    b. (上手に踊る芸者を見て殿が言う)けっこうけっこう

    c. それはけっこうな事ですね

(9) ‘評価’の要素を持たない副詞「とても」

    a. *とても走るねぇ

    b. *とてもだね

2.2‘実感の強調’

(10)  a. まったく新しいジャンルの音楽です (程度限定)

    b. まったく迷惑な話だ (実感の強調)

(11) 提案: 「まったく」は、‘実感の強調’の要素を持っている。
    cf. まったく(もう)!

(12) 「まったく」vs.「ったく」 (cf. (10))

    a. ??ったく新しいジャンルの音楽です

    b. ったく迷惑な話だ

3.まとめ

 肯定・否定両表現にまたがって使用される「とても」「なかなか」「まったく」の3つの副詞は、否定表現になると、いずれも肯定表現とは違う機能を有することを示した。また、「なかなか」には‘評価’の要素、「まったく」には‘実感の強調’の要素があるということを主張した。このことから、逆に肯定表現における「とても」が、他の副詞に比べて中立的な副詞であるということも言える。

参考文献

仁田義雄(2002)『新日本語文法選書3 副詞的表現の諸相』くろしお出版