(1) 仁田(2002)による程度副詞の分析:
a. 程度限定(述語の属性・状態の限定) 彼は非常に大きい
b. 数量限定(対象の数量や動きの量の限定) お酒をたくさん飲んだ
(2) 新しく提案したい機能:
a. 既遂の限定
動詞の表す動きや状態の変化が起き、事態が新たな状況に突入したかどうかの限定
b. 可能性の限定
動詞が表す動きや変化が起こる可能性の限定
(3) 「とても」
可能性の限定:こんな状況じゃとても死ねない
(4) 「なかなか」
a. 数量限定: いくらくすぐっても、なかなか笑わない
この国の王様はなかなか笑わない
b. 既遂の限定: いくらくすぐっても、なかなか笑わない
この国の王様はなかなか笑わない
(5) 「まったく」
a. 程度限定: あの映画はまったく面白くなかった
b. 数量限定: リクエストした曲はまったく流れなかった
c. 可能性の限定: 財政状況の改善はまったく望めない
仁田(2002)では、「なかなか」は純粋程度副詞であるから、動きの量の非限界性しか持たない動詞(走る、吹く、押す、等)とは共起しないと述べられている。しかし、実際には次の例は容認可能である。
(6) なかなか走るねぇ
(7) 提案: 「なかなか」は、‘評価’の要素を持っている。
cf. なかなかだね
(8) ‘評価’の要素を持つ副詞「けっこう」
a. (何度も素振りをするバッターを見て)けっこうやるねぇ
b. (上手に踊る芸者を見て殿が言う)けっこう、けっこう
c. それはけっこうな事ですね
(9) ‘評価’の要素を持たない副詞「とても」
a. *とても走るねぇ
b. *とてもだね
(10) a. まったく新しいジャンルの音楽です (程度限定)
b. まったく迷惑な話だ (実感の強調)
(11) 提案: 「まったく」は、‘実感の強調’の要素を持っている。
cf. まったく(もう)!
(12) 「まったく」vs.「ったく」 (cf. (10))
a. ??ったく新しいジャンルの音楽です
b. ったく迷惑な話だ
肯定・否定両表現にまたがって使用される「とても」「なかなか」「まったく」の3つの副詞は、否定表現になると、いずれも肯定表現とは違う機能を有することを示した。また、「なかなか」には‘評価’の要素、「まったく」には‘実感の強調’の要素があるということを主張した。このことから、逆に肯定表現における「とても」が、他の副詞に比べて中立的な副詞であるということも言える。
仁田義雄(2002)『新日本語文法選書3 副詞的表現の諸相』くろしお出版