副詞的用法のアマリの意味制限

言語学4年 兼行裕


1. 問題提起

 「あまりのXにY」、「XのあまりY」という2つの構文は、Xの程度が極端に高いことや低いことによって、Yという事象が起こることを表しているが、この2つの構文は、言い換えることが可能な場合と言い換え不可能な場合がある。

 

(1) a. あまりの楽しさに時間を忘れた。/b. 楽しさのあまり時間を忘れた。

(2) a. あまりの成績に二度見した。/b. *成績のあまり二度見した。

 

「あまりのXに」と「Xのあまり」にはどのような違いがあるだろうか。


2. Xに対する制限

 

(3)   「XのあまりY」の場合、Xの過度な感情/評価により、Yという、話者自身にも意外な結果が起こる、という意味のため、Xには感情/評価を表す表現があらわれなければならないが、「あまりのX」の場合、そのような制限はない。

(4) a. *成績のあまり二度見した。/b. あまりの成績に二度見した。

(5) a. ?*態度のあまり驚いた。/b. あまりの態度に驚いた。

(6) a. *筋肉のあまりボディービルダーかと思った。/*筋肉のあまり弱そうだと思った。

b. あまりの筋肉にボディービルダーかと思った。/??あまりの筋肉に弱そうだと思った。

(7) a. *光景のあまり眼科に行こうと決意した。/b. あまりの光景に眼科に行こうと決意した。

(8) a. *展開のあまりついていけない。/b. あまりの展開についていけない。

(9) a. *動きのあまり感動した。/b. あまりの動きに感動した。

(10) a. *変化のあまり戸惑いを隠せない。/b. あまりの変化に戸惑いを隠せない。

(11) a. *雰囲気のあまり飲み込まれそうになる。/b. あまりの雰囲気に飲み込まれそうになる。

(12) a. ?*ボタンのサイズのあまり縫い付けることができない。

b. あまりのボタンのサイズに縫い付けることができない。

 

 これに対して、(13)(14)のようにXが感情・感覚を伴うものなら容認可能である。そして(15)(16)のようにXが評価・判断であっても容認可能である。この場合にも「あまりのXにY」は、すべて容認可能である。

 

(13) a. 痛さのあまり泣いてしまった。/b. あまりの痛さに泣いてしまった。

(14) a. 足の痛さのあまり座り込んだ。/b. あまりの足の痛さに座り込んだ。

(15) a. 可愛さのあまり抱きしめそうになった。/b. あまりの可愛さに抱きしめそうになった。

(16) a. 非常識さのあまり思わず手がでた。/b.あまりの非常識さに思わず手がでた。

 

3. 衝動性と方向性

 

(17)  「XのあまりY」は、Xに起因して我慢ができずにYしてしまったというような、衝動性があり、冷静な判断を欠いた状態を表すため、Yはマイナスの結果を表す。意外性や驚きも内包する。これに対して、「あまりのXにY」の場合、プラスの原因のXにはプラスの結果のY、マイナスの原因のXにはマイナスの結果のYが関連づけられている。「Xのあまり」のほうが、「あまりのX」より、話者の主観的な程度が強い。

 

 容認可能である(13)(14)の例は、衝動性があるため、すべてYはマイナスの解釈となる。一方、「あまりのXにY」はすべての例において、プラスのXにプラスのY、マイナスのXにマイナスのYである。

 (18)で示す通り、話者にとってのXの主観的な程度は、「あまりのX」<「Xのあまり」である。

 

(18) a. あまりの可愛さに抱きしめてしまった。

b. 可愛さのあまり抱きしめてしまった。

 

(18a)に比べ、(18b)は、話者にとってより意外な結果であると解釈できる。また、文の中で一番強調されている箇所は、(18a)では、「可愛さ」であるが、(18b)は、「抱きしめてしまった」である。


4. X とY の時間制限

 

(19)  「XのあまりY」は、Xはその時、瞬間的なもので、Yと同時性があるため、過去ではない。これに対して、「あまりのXにY」は、XはYの時点で過去の事象であっても良い。

 

(20)(21)のように「XのあまりY」ではXが評価・判断の場合、修飾する要素があると、容認性が下がるが、「あまりのXにY」の容認性は下がらない。

 

(20) a. ??メガネのかっこよさのあまり惚れた。/かっこよさのあまりメガネに惚れた。

b. あまりのメガネのかっこよさに惚れた。

(21) a. ??敵の強さのあまりおじけづいた。/強さのあまり(敵に)おじけづいた。

b. あまりの敵の強さにおじけづいた。

(22) a. ??仕事の遅さのあまり腹が立った。/遅さのあまり腹が立った。仕事が遅すぎる。

b. あまりの仕事の遅さに腹が立った。

(23) a. ??像の大きさのあまり驚いた。/大きさのあまり像に驚いた。

b. あまりの像の大きさに驚いた。

(24) a. ??祖父の頭の堅さのあまりため息がでた。/b.あまりの祖父の頭の堅さにため息がでた。

(25) a. *時の流れの速さのあまり驚きを隠せない。/b.あまりの時の流れの速さに驚きを隠せない。

(26) a. *?道の多さのあまり困惑した。/b.あまりの道の多さに困惑した。