「あまりのXにY」、「XのあまりY」という2つの構文は、Xの程度が極端に高いことや低いことによって、Yという事象が起こることを表しているが、この2つの構文は、言い換えることが可能な場合と言い換え不可能な場合がある。
(1) a. あまりの楽しさに時間を忘れた。/b. 楽しさのあまり時間を忘れた。
(2) a. あまりの成績に二度見した。/b. *成績のあまり二度見した。
「あまりのXに」と「Xのあまり」にはどのような違いがあるだろうか。
(3) 「XのあまりY」の場合、Xの過度な感情/評価により、Yという、話者自身にも意外な結果が起こる、という意味のため、Xには感情/評価を表す表現があらわれなければならないが、「あまりのX」の場合、そのような制限はない。
(4) a. *成績のあまり二度見した。/b. あまりの成績に二度見した。
(5) a. ?*態度のあまり驚いた。/b. あまりの態度に驚いた。
(6) a. *筋肉のあまりボディービルダーかと思った。/*筋肉のあまり弱そうだと思った。
b. あまりの筋肉にボディービルダーかと思った。/??あまりの筋肉に弱そうだと思った。
(7) a. *光景のあまり眼科に行こうと決意した。/b. あまりの光景に眼科に行こうと決意した。
(8) a. *展開のあまりついていけない。/b. あまりの展開についていけない。
(9) a. *動きのあまり感動した。/b. あまりの動きに感動した。
(10) a. *変化のあまり戸惑いを隠せない。/b. あまりの変化に戸惑いを隠せない。
(11) a. *雰囲気のあまり飲み込まれそうになる。/b. あまりの雰囲気に飲み込まれそうになる。
(12) a. ?*ボタンのサイズのあまり縫い付けることができない。
b. あまりのボタンのサイズに縫い付けることができない。
これに対して、(13)(14)のようにXが感情・感覚を伴うものなら容認可能である。そして(15)(16)のようにXが評価・判断であっても容認可能である。この場合にも「あまりのXにY」は、すべて容認可能である。
(13) a. 痛さのあまり泣いてしまった。/b. あまりの痛さに泣いてしまった。
(14) a. 足の痛さのあまり座り込んだ。/b. あまりの足の痛さに座り込んだ。
(15) a. 可愛さのあまり抱きしめそうになった。/b. あまりの可愛さに抱きしめそうになった。
(16) a. 非常識さのあまり思わず手がでた。/b.あまりの非常識さに思わず手がでた。
(17) 「XのあまりY」は、Xに起因して我慢ができずにYしてしまったというような、衝動性があり、冷静な判断を欠いた状態を表すため、Yはマイナスの結果を表す。意外性や驚きも内包する。これに対して、「あまりのXにY」の場合、プラスの原因のXにはプラスの結果のY、マイナスの原因のXにはマイナスの結果のYが関連づけられている。「Xのあまり」のほうが、「あまりのX」より、話者の主観的な程度が強い。
容認可能である(13)(14)の例は、衝動性があるため、すべてYはマイナスの解釈となる。一方、「あまりのXにY」はすべての例において、プラスのXにプラスのY、マイナスのXにマイナスのYである。
(18)で示す通り、話者にとってのXの主観的な程度は、「あまりのX」<「Xのあまり」である。
(18) a. あまりの可愛さに抱きしめてしまった。
b. 可愛さのあまり抱きしめてしまった。
(18a)に比べ、(18b)は、話者にとってより意外な結果であると解釈できる。また、文の中で一番強調されている箇所は、(18a)では、「可愛さ」であるが、(18b)は、「抱きしめてしまった」である。
(19) 「XのあまりY」は、Xはその時、瞬間的なもので、Yと同時性があるため、過去ではない。これに対して、「あまりのXにY」は、XはYの時点で過去の事象であっても良い。
(20)(21)のように「XのあまりY」ではXが評価・判断の場合、修飾する要素があると、容認性が下がるが、「あまりのXにY」の容認性は下がらない。
(20) a. ??メガネのかっこよさのあまり惚れた。/かっこよさのあまりメガネに惚れた。
b. あまりのメガネのかっこよさに惚れた。
(21) a. ??敵の強さのあまりおじけづいた。/強さのあまり(敵に)おじけづいた。
b. あまりの敵の強さにおじけづいた。
(22) a. ??仕事の遅さのあまり腹が立った。/遅さのあまり腹が立った。仕事が遅すぎる。
b. あまりの仕事の遅さに腹が立った。
(23) a. ??像の大きさのあまり驚いた。/大きさのあまり像に驚いた。
b. あまりの像の大きさに驚いた。
(24) a. ??祖父の頭の堅さのあまりため息がでた。/b.あまりの祖父の頭の堅さにため息がでた。
(25) a. *時の流れの速さのあまり驚きを隠せない。/b.あまりの時の流れの速さに驚きを隠せない。
(26) a. *?道の多さのあまり困惑した。/b.あまりの道の多さに困惑した。