(1) 「Vヤシナイ」には、(i)不満を表す用法、(ii)不満以外を表す用法の2つの用法がある。
(2) 不満を表す用法の場合、
・Vに意思性がある場合、不満を引き起こす原因は主語にあると捉えやすい。
・Vに意思性のない場合、不満を引き起こす原因は主語とは限らない。
(3) 不満以外を表す用法の場合
・Vに意思性がある場合、主語がそのようなことをする理由がない、と発話者が思っている傾向がある。
・Vに意思性のない場合、(なんらかの理由で)そんなことは起こりえない、と発話者が思っている。
(4) 不満を表す用法:
a. 息子は夫に話しかけやしない。
b. いくら呼んでも、弟はすべり台から離れやしない。
(5) 不満を表さない用法:
a. (明日の試合には勝ちたいと意気込んでいる) 明日の試合は負けやしない。
b. (悩みを一郎に相談しようかどうか迷っている友人の背中を押している) 一郎は友達を見捨てやしない
(6) 日本語動詞の4分類(金田一 1950) と意思性
状態動詞 (第一種) |
継続動詞 (第二種) |
瞬間動詞 (第三種) |
第四種の動詞 | |
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意思性 有 | 要する | 笑う/遊ぶ/歌う/考える | 殺す/触る/買う/着く | (該当なし) |
意思性 無 | いる/ある | (雨が)降る/見える/育つ/響く | 見つかる/生える/消える/なくなる | 劣る/似る/禿げる |
(7) (鈴木さんの能力を嫌味に感じている) 鈴木さんは課題を終わらせるのに一時間要しやしない。
(8) a. (ユミコの愛想のなさに発話者が不満を感じている) ユミコは笑いやしない。
b. 息子は夫に話しかけやしない。
(9) a. (家を買ってもいい時期なのに、夫が買おうとしないので不満に思っている) 夫は家を買いやしない。
b. いくら呼んでも、弟はすべり台から離れやしない。
(10) (アユが生息するに相応しい清流だが、アユがいない) この川にアユはいやしない。
(11) (スタジオは音の反響がいいものと思い込んでいたのに、実際は違った。) このスタジオは音が響きやしない。
(12) a. (育毛剤などを使っているのに、なかなか生えてこない) 髪の毛が生えやしない。
b. (公園で兄弟でかくれんぼをしている) いくら呼んでも、弟は見つかりやしない。
(13) (親子だから似てほしいが、思うように似ていないことに対する不満) 息子は夫に似ていやしない。
(14) (鈴木さんの機敏さを発話者が知っている) 鈴木さんは課題の文章を作るのに1時間要しやしない。
(15) (姪っ子は家の中で絵本を読むことを非常に好んでいると知っている) 5歳の姪っ子は外で遊びやしない。
(16) a. (彼が生き物を大事にしていることを知っている) 彼は蚊も殺しやしない。
b. (悩みを一郎に相談しようかどうか迷っている友人の背中を押している) 一郎は友達を見捨てやしない。
(17) (天国という非現実的名ものを信じる友達に言い聞かせている) 天国はありやしない。
(18) (元から花が育たないとわかっている超高山地帯について述べている) 花が育ちやしない。
(19) a. (数年消えないままの怪我の痕を指して述べている) この傷は消えやしない。
b. (明日の試合には勝ちたいと意気込んでいる) 明日の試合は負けやしない。
(20) (百合と薔薇の美しさを比べて百合を褒めている) 百合は薔薇に劣りやしない。