モウ・マダは、状態の移行があるのを前提として、完了・未完了の意味を持つ。
(1) a. *僕はもう身長が低い。(*高い→低い)
b. *これは私にとってもう知らない世界だ。(*知っている世界→知らない世界)
(2) a. *私はまだ背が高い。(*背が高い→背が低い)
b. *目的地までまだ近い。(*目的地まで近い→目的地まで遠い)
(3) 状態の移行直前に発話時点があるモウ
a. 電車はもう来る。
b. もう恋はする。
(4) 状態の移行直前もしくは移行後に発話時点があるモウ
a. もう3時だ。
b. もう学校には行かない。
c. いつの間にかずいぶん歳をとってしまっていて、ふと気づいたときには、夢はもうかなわない。(夢がかなう可能性がある→夢がかなう可能性がない)
(5) 発話時点が状態の移行直前に来られないモウ
a. (映画の前売り券を買って、映画公開日を心待ちにしているときに)*もうあの映画は見ている。
b. (これから妹の子どものところに手紙を届けようとしているとき)*もう手紙は届けた。
(6) 状態の移行前に発話時点があるマダ
a. まだ3時だ。
b. まだ東京へは進出しない。
c. (おとぎ話で)私はまだ年寄りだ。
d. この箱にはまだ荷物が入る。
(7) 完了・未完了 + 早い・遅いという心理
a. (5分前にパーティに来た人が帰るのを見て)あの人もう帰るんだ。
b. (10年間司法試験の勉強をしている人を見て)まだあの人は受からないかぁ。
(8) 完了・未完了のみ
a. あんなにいろいろうるさく言われて、もう我慢の限界だ! (*「早い」)
b. 彼とのデートが今終わったばかりで、まだ夢心地だ。 (*「遅い」)
(9) 問題:
どのようなときに状態の移行が起こるのが早い・遅いと感じる心理が表されず、単なる完了・未完了の意味になるのか。
(10) 主張:
状態が移行している時点の話し手の予想がなければ、その移行が起こるのが早い・遅いと感じる心理は表されない。
(11) a. 1週間前なのに僕はもう遠足気分だ。
b. あの娘は(10歳なのに)もう背が高い。
(12) 話し手の予想がない場合:
何年も前に公開された映画だから、あれはもう見ている。
(13) a. 健二はまだ部長だ。
b. まだ3時だ。
(14) 話し手の予想がない場合:
荷物を入れ始めたばかりだから、まだこの箱には入る。
池田英喜(1999)「「もう」と「まだ」−状態の移行を前提とする2つの副詞−」『阪大日本語研究』11: 19-35.