(1) ビールならキリンだよなぁ。(P:ビール、Q:キリン)
(2) ビールなら冷蔵庫でしょ。(P:ビール、Q:冷蔵庫)
(3) ナラは、Pをキーワードとして情報データベース内を検索し、検索結果から適切なQを抽出するという操作を行う。
(4) Pに総称的な体言が生起する場合、Qは検索結果からある抽出基準によって抽出され、「代表」の用法・解釈となる。
(5) Pに特定的な体言が生起する場合、Qが検索結果から抽出され、「話題」の用法・解釈となる。
(6) 「代表」
(スーパーでビールを買うときに)ビールならキリンだな。
(7) a. 京都なら金閣寺だ。
b. どら焼きなら粒あんだよな。
c. 賃貸アパートのことならアパマンショップだな。
(8) a. かわいさなら上戸彩だな。
b. 使いやすさならカシオのエクスワードだ。
(9) a. 京都ならあの金閣寺だな。
b. どら焼きならあの粒あんだよな。
c. 賃貸アパートのことならこのアパマンショップだな。
(10) a. *ビールなら日本酒だな。
b. *京都なら福岡だ。
c. *ソフトバンクならauだよなぁ。
(11) 「話題」
A:ビールってどこだっけ?
B:ビールなら冷蔵庫でしょ。
(12) a. 中華まんならレンジの中だよ。
b. 田中なら図書館だ。
c. ニュースなら7時からだよ。
(13) a. あのビールなら冷蔵庫でしょ。
b. あの田中なら図書館だ。
(14) a. そのうまい酒ならココだ。
b. 私の電子辞書ならこれだ。
このように、ナラは、「代表」の用法であれ、「話題」の用法であれ、言語使用者の情報データベースの中から何らかの基準によって必要な情報を選択、抽出するという操作を行っている。先行研究ではPナラQ形式についていくつかの用法が提示されていながらも、その違いが明確でなかったり、特定の用法だけに限って考察がなされていたりしたが、(4)、(5)を提案することでP、Qに体言が現れるPナラQ形式およびナラの意味・用法をより一般的に記述、分析して提示しなおすことができる。
上山あゆみ(2011)「統語論に基づく新しい意味理論の提案」、人工知能学会研究会資料 SIG-SLUD-B101,pp.35-40
志澤剛(2011)「N1ナラN2条件形式の意味・機能と認可条件」『日本語文法』11:77-93
鈴木義和(1992)「提題のナラとその周辺」『園田学園女子大学論文集』26:1-12
仁田義雄(2009)『現代日本語文法5』. 東京: くろしお出版
益岡隆志(編)(1993)『日本語の条件表現』. 東京: くろしお出版
益岡隆志・野田尚史・沼田善子(編)(1995)『日本語の主題と取り立て』. 東京: くろしお出版